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雪崩事故に遭わないただ1つの方法!そのメカニズムと唯一の回避方法


こちらの映像はバックカントリースキーで雪崩に巻き込まれた様子を撮影したものです。規模は小さいものの巻き込まれたスキーヤーは1m程度埋もれている様子が確認できます。ラッキーにもストックが雪面に出ていたことでビーコンは使用せずに発見。同行者に装備があったため短時間で救助することができましたが、かなり慌ててる様子が伝わってきます。突っ込みどころ満載の動画ですが、自分達が当事者となった場合、はたしてどこまで冷静に対応出来るのか?自問自答したくなります。


北海道の山岳地帯における雪崩遭難アンケートでは147件の調査を行い、遭難者は59名。デブリ埋没時間による生と死の分岐点が15分という結果が出ています。15分以内に発見された者は全員が生還し、30分になると生存率は40%、60分では26%まで低下します。これにより雪崩に埋没しても即死するのではなく救出までの時間が短いほど生存率が高いことが分かります。遭難者の死因として考えられるのは、窒息、外傷、凍死などがありますが、多くの場合窒息が生死を分けます。


雪山において雪崩に遭遇し、遭難者が発生した場合、救助を要請し15分以内に救助隊が到着。埋没者を発見するのは不可能に近く、それは遺体捜索を意味します。15分以内の生存救出を可能にする方法はセルフレスキューの他にありません。つまり自らの力で埋没者を発見救出することです。雪崩の遭難現場に遭遇した者が最初にしなければならなのは、救助要請ではなくセルフレスキューの実施です。


900秒の命のカウントダウンはそれほど長くはありません。雪崩遭難者を15分以内に発見し、救出するために必要な装備が雪崩ビーコン、プローブ、スコップです。ビーコンで埋没者の位置を特定するのに5分~7分、スコップで掘り出すのに10分、この時間内で出来るか一度練習してみることをお勧めします。なお1立方mの雪を掘り出すのにスコップでは約7分、スノーボードや手では45分というデータもありスノーショベルは言うまでもなく個人装備として必要です。

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■ 弱層テストで雪崩の危険を察知する。

雪崩の危険を察知するための有効な方法として知られている「弱層テスト」。雪崩に関する書籍や講習会でも必ず行われるこのテスト。実際にやってみた方は感じると思いますが多少練習した程度ではテスト結果に全く自信が持てないことに気が付きます。理解が出来て結果に自信が持てるには、それなりの経験が必要なのは言うまでもありません。また多くの事故と関わりが深い「面発生表層雪崩」がどのようにして起こるのかの理解も必要です。


例えば、数日間続いた吹雪と降雪が止み、無風快晴の朝、迷わずスティープな斜面に滑り込みたくなりますが、前日までの吹雪の間、山では雪と雪がぶつかり合い、風に叩かれ小さく砕けた雪の結晶が風下の斜面に吹き溜まっています。このような雪は素早く固まり板状の層を形成してゆきます。降り始めの気温が高くミゾレが降り、雪面に水分を含んだ状態で、その後気温が下がりザラメ雪が霜ザラメに変わったりアラレが降ったりしていた場合、ここが弱層となり上の積雪の層との結合が弱く30cm以上の降雪があった場合は非常に危険な状態といえます。条件にもよりますが雪が安定するためには半日~数日の時間が必要です。


また二セコなどの日本海の気象に大きく影響される山域では常に降雪があり内陸の高山帯のような極端な低温になることが少なく、そのため霜ザラメ層は山頂付近の僅かな場所でしか確認が出来ません。雪崩には多くの種類があり私達が特に気を付けなくてはいけないのは「面発生表層雪崩です。これは発生原因から2つに分けられ、その1つが上記で説明した弱層が破壊されることにより起こる雪崩です。


もう1つは二セコなどで見られる吹雪などで壊された雪の結晶が風下斜面に吹き溜まり、斜面の均衡が破られることにより起きる雪崩です。これらは霜ザラメなどの弱層は見られないにも関わらず雪崩れが発生します。北欧のスキーリゾートではアバランチコントロールなどで この危険な層は落としてしまうことが常識化しているので事故に至ることは少なく、同じ面発生でも判断の難しい弱層が原因となる面発生の雪崩に関する研究が進み、それが現在の日本の雪崩研究の主流になっているのが現状です。


例に二セコ各スキー場エリアの雪崩事故の統計を見るとアンヌプリ南面には、二セコアンヌプリスキー場、東山スキー場、モイワスキー場などがあり東面にヒラフスキー場が展開しています。このうち南面の斜面に面しているエリアに過去の雪崩事故が集中しているのがわかります。これは冬型の気圧配置の中で吹く西~北西の風により南斜面には風雪を遮る壁となってくれる山がなく、尾根やその南東斜面に風成雪に覆われた斜面が出来やすくなるのが要因です。


これは東面に比べて雪庇の発達の度合いを見ても明らかです。吹雪の最中やその直後にこの斜面に入り込むことにより雪崩事故に遭う確立は非常に高くなります。一方東面にあるヒラフスキー場周辺では風雪時に降雪は多いものの風は比較的弱いことが多く、他の3スキー場に比べ雪庇や風成雪の発達は少ないのが特徴です。このため藤沢の沢や、春の滝を除き真冬の雪崩事故の発生率が低いことがわかります。このように日本海気候の影響を受ける山域での雪崩事故の原因は風雪にあり、霜ザラメ層は関与していないことも多くあります。


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■ 最も有効なのは雪崩に遭わないということ。

雪崩から仲間や自らの命を守る道具としてアバランチビーコン、スノーショベル、プローブがありこれらを三種の神器と表現する方もいますが、これらは神器ではありません。埋没という最悪の事態が発生した状況において生還の可能性を僅かに上げる程度の道具でしかありません。雪崩対策で大事なことは、「雪崩に遭わないこと」であり雪崩に埋まった時点で最悪の状況にいるのだということを認識しなければいけません。


ここにカナダでの雪崩遭難者のデータがありますが、ビーコンを携行していた41人のうち助かった人は32%の12人、携行せずに助かった人は32人中13%の4人でビーコンを携行していて助かった人のパーセントは3倍まで跳ね上がったものの68%の29人はビーコンを携行していたにも関わらず亡くなっているというショッキングなものがあります。これは地域的な問題(雪崩の規模)もあり、単純には日本の事情とは比較できませんが、装備を持っていても生還率は3割程度という厳しい現状です。ただし日本国内の事例では15分以内に掘り出された雪崩遭難者は100%に近い確立で生還しています。


ですが仮に3mの深さに仲間が埋没した状況を考えた場合はどうでしょう。深くなればなるほど穴から掻き出す雪も多くなり、階段状に穴を掘り下げ最終的な穴の入り口は4m~5mもの直径になるでしょう。この穴を2人~3人で交代で掘り進めた場合はどの位の時間がかかるのでしょう? 1人では?埋没者が複数の場合は? 深く埋没した場合はビーコンの反応も弱く、ピンポイントの特定は難しくなり掘り進めながらもビーコンやプローブで当たりをつけながらの作業が続きます。


想像以上の重労働で精神的な負担も、かなりのものと想像ができます。運良く仲間を掘り出したとしても、それで命を救ったことにはならないかもしれません。骨折していた場合はどうする? 救急医療品を携行しているか? 救急法の知識はあるのか? 低体温症の症状は? 仲間を移動する体力はあるか? ビバークの装備は? このような最悪のことを考えていくと際限が無くなりますが、けっして起こりえないことではありません。


■ まとめ。

冬山に限らず自然の中での行動に100%の危険回避は難しいのかも知れません。しかし命に関わることとなるとやはり真剣に考えなくてはいけません。雪崩に関しては毎年講習会が日本全国で開催されています。講習会に参加することで弱層テストやセルフレスキューの方法、雪崩の危険回避から救急法まで学ぶことが出来ますので是非繰り返し参加しましょう。そして何より有効なのは雪崩れに遭わないようにするということです。長々と書いてきましたが、雪崩に関して素人の私達が特別な訓練もなく誰でも取れる唯一の予防策は以下の1点だけですので絶対に忘れないで下さい。


「吹雪の最中やその直後に風下の吹き溜まり斜面に絶対入らない!」


これを守るだけで雪崩に遭う確立は確実に激減します。

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